「押しつけ」ではなく「悩ませない」研究テーマの提供
時空間情報創造学研究室は創設期にあたるため、研究テーマを教員があらかじめ提示し、その中から希望するものを学生に選んでもらうスタイルを基本とします。これは確実かつ速やかに成果を積み重ね教育基盤を形成するために必要な、長期計画の一部です。最初から全員がバラバラなテーマに散ってしまうと、研究室の蓄積がまとまらずに将来の学生が享受すべき芯のある研究環境が薄まってしまいます。したがって研究の入口では「悩まないで歩き出せるようなテーマ設定」を用意し、すぐに本質的な意義が含まれる研究に取り組める体制を準備します。
多くの研究室が学生の自由な発想を起点にテーマを定めており、そのアプローチが大きな成果を生んでいることも、私自身よく理解しています。実際、私も早稲田大学では学生の自由提案型テーマを積極的に受け入れ、多様な面白い研究が生まれ、教育的にも豊かな経験を積んできました。しかし本研究室では、いまはあえて別の方針をとっています。重視しているのは、研究室として掲げるビジョンや理念を、単発ではなく継続的な研究の積み重ねによって「具体的な事例」として育て、明確な方向性を形づくることです。数年単位で育つテーマは、学生にとっても「この道で進めばよい」という安心感を与え、同じベクトルを持った成果が揃うことで後輩への継承も自然に進みます。自由な発想を否定するのではなく、その発想がより長期的な価値に育つ環境づくりのために、あえて継続性のあるテーマ設定を選んでいるのです。
研究テーマの設定につい多様な研究室があるということは、学生の選択肢を狭めるよりむしろ、自分の適性に合わせて環境を選べるというメリットがあります。たとえば、白いキャンバスに自由な発想で絵を描くことに喜びを感じる学生もいれば、精密なプラモデルを設計図どおりに組み上げる作業に力を発揮する学生もいます。自由に創作したいタイプなら、それを最大限尊重してくれる研究室のほうが向いているかもしれませんし、緻密に積み上げる作業が得意なタイプなら、本研究室のように方向性を提示するスタイルのほうが実力を伸ばしやすいでしょう。重要なのは、自分の適性とやりたい研究の姿に合わせて、自分で選ぶことです。その選択の過程こそが、困難に直面したときにも「やらされている」のではなく、自分の意思で選んだ道として責任を持って取り組める健全な関係をつくり、ハラスメント構造を避けるうえでも大切です。こうした点を踏まえたうえで、配属を考えてください。
とはいえ、研究テーマが与えられるからといって、細部まで指示があるわけではありません。むしろ、疑問や懸念、反論があれば遠慮なく言ってほしいと思っています。研究は対話を通じて深化していくものですし、学生の視点や気づきが研究を前に進める場面も多くあります。研究の過程で苦手が見つかったり、方向性に迷いが生じたりすることは自然なことです。そのたびに一緒に考え、必要な対話・問題解決をしていくことで、研究の本当の面白さが少しずつ立ち上がってきます。不安を抱えやすい人も、声を出すのが得意でない人も、どうか気負わずに相談してください。丁寧に伴走していきます。
研究テーマ一覧
これから数年間で研究室の土台を形づくるために、以下の研究の種を発展させていく予定です。単発の文献調査、実験・検証などでは終わらず、マニュアル、可視化モデル、データパッケージ、提案書、アウトリーチ作品など、後に残る具体的な成果物への還元を目指します。(随時更新・追加予定)
文献等調査研究
● ArcGIS文献調査・運用基盤構築背景
- 背景:ArcGIS製品群が多岐にわたり、利用者は運用体系を把握しづらい。
- 課題:アプリが乱立して用途混乱が生じ、研究開発の生産性が低下。
- 目的:ArcGISの全体像、利用パターン、海外動向を整理し体系化する。
- 手法:企業聞き取り調査、米国動向調査、国内利用事例の分析。
- 期待成果:研究室版「ArcGIS運用ガイドブック(体系マップ+導入指針)」。
● QGIS基盤構築
- 背景:QGISは自由度が高く、導入者ごとに環境のばらつきが大きい。
- 課題:プラグイン選定や作業フローが標準化されていない。
- 目的:研究室標準のQGIS環境・手順書・教育パッケージを整備する。
- 手法:文献調査、プラグイン比較、ワークフロー最適化。
- 期待成果:「QGISスターターパッケージ(環境設定+教材+テンプレ)」
● GeoAIの現状調査
- 背景:GeoAIは急速に拡大し最新動向把握が必須。
- 課題:技術トレンドの体系理解が困難。
- 目的:GeoAIの全体像を俯瞰し、研究室の技術レーダーを作る。
- 手法:文献レビュー、モデル分類、事例体系化。
- 期待成果:「GeoAI技術ロードマップ(日本語版)」「GeoAIテーマ抽出マトリクス(次年度テーマ化に直結)」
● 地図資料室の調査
- 背景:資料室には貴重な紙資料が集積しているが、利用の構造化が進んでいない。
- 課題:デジタル化や公開、GeoAI連携を見据えた体系整理が不足。
- 目的:資料の構造整理と将来のデジタルアーカイブ方針を明確化する。
- 手法:年代整理、分類設計、運用者インタビュー、外部事例調査。
- 期待成果:「デジタルアーカイブ構築の提言書」「施設側へのフィードバックレポート」
● 他大学地理学資料の調査
- 背景:地理学の教育・研究は大学ごとの差異が大きい。
- 課題:自学科の立ち位置が把握しづらく、改善点も見えにくい。
- 目的:他大学の教育内容・研究特徴を系統的に比較する。
- 手法:資料収集、教育内容の抽出、SWOT分析の適用。
- 期待成果:「他大学比較レポート+本学科のSWOT分析結果(公開版)」
● ドローン運用システムの調査研究
- 背景:ドローン利用ルールが高度化し、学科としての統一方針が必要。
- 課題:地理学研究・教育に最適化された運用体系が欠如。
- 目的:国内外の運用システムを調査し、最適な運用マニュアルを再構築。
- 手法:外部機関のヒアリング、運用比較、学科特性を踏まえた体系化。
- 期待成果:「地理学科向けドローン運用マニュアル(安全・点検・手続き)」
基礎学術研究
● 積雪マッピング技術の改良(SAR+気象)
- 背景:豪雪地域では積雪マップの高精度化が必要。
- 課題:光学データなしでの推定技術が未確立。
- 目的:SAR後方散乱+気象データだけで動作する積雪推定技術の開発。
- 手法:後方散乱解析、気象補正、機械学習の適用検討。
- 期待成果:「SAR積雪推定アルゴリズム(試作版)」「豪雪地帯向け積雪マップ生成パイプライン」
● ドローン校正検証
- 背景:研究で安価なドローンを活用する機会が増えている。
- 課題:測量機能がない機体でどこまで精度が出るかの検証例が少ない。
- 目的:廉価機・手動操縦で得られる3D計測精度の限界を示す。
- 手法:繰り返し撮影、GCP比較、誤差計測、地形条件の違い検証。
- 期待成果:「安価機ドローンの精度検証レポート(研究室標準値)」
● 氷河の表面エネルギー収支モデル改良
- 背景:氷河融解のモデル化は国際的な課題。
- 課題:既存モデルの熱抵抗・乱流・短波の扱いに限界。
- 目的:エネルギー収支モデルの改良と誤差要因の整理。
- 手法:ERA5統合、衛星データ比較、熱抵抗モデル改善。
- 期待成果:「改良版エネルギー収支モデル(コード+解説)」「研究室の氷河モデル基盤資料」
アプリケーション研究開発
● GEE紅葉の可視化
- 背景:紅葉の広域変動は現地観測が少なく把握が困難。
- 課題:色づきの進行を衛星で連続的に表現する手法が未整備。
- 目的:紅葉前線の空間的・時間的推移をアニメーション化。
- 手法:赤色系指数の開発、時系列変化点解析、マップムービー化。
- 期待成果:「紅葉進行の季節ダイナミクス可視化モデル(試作版)」
● GEE桜前線の可視化
- 背景:広域の開花進行を地上観測だけに依存すると不連続性が大きい。
- 課題:桜前線の“移動”を時空間的に一望できる可視化手法が不足。
- 目的:衛星時系列から桜前線の北上をアニメーションとして表現する。
- 手法:NDVI変化点抽出、移動量解析、GEEによる動態マップ生成。
- 期待成果:「桜前線アニメーション生成パッケージ」